Ethno-Remedies: Bedtime Stories ⇄ A Life’s Manual @ Naramachi Bookspace ふうせんかずら / Ethno-Remedies: Bedtime Stories ⇄ A Life’s Manual @ Naramachi Bookspace Fusenkazura
奈良県立大学 実践型アートマネジメント人材育成プログラム CHISOU − プログラム2「生態」
長坂有希ワークインプログレス展「Ethno-Remedies: Bedtime Stories ⇄ A Life’s Manual」
2021年12月18日−26日
Naramachi Bookspace ふうせんかずら
展覧会ハンドアウトからの抜粋テキスト:
Ethno-Remedies: Bedtime Stories ⇄ A Lifeʼs Manual
2020年の春、CHISOUプログラムから奈良を舞台にして何らかの美術活動、制作をして ほしいという話を受け、何度かの奈良訪問とプレ・リサーチを経たのちに、このプロジェク トを始めた。「Ethno-Remedies: Bedtime Stories ⇄ A Lifeʼs Manual」というプロジェクト 名は私が作り出した造語だが、もしEthno-Remediesを直訳するならば⼈々の暮らしのなか で使われてきた漢⽅薬などの⺠間薬や⺠間療法を意味するだろう。しかし、私が意図する Ethno-Remediesは薬のような物質的なものだけではなく、またそれを飲みさえすれば治る というような特効薬でもない。私が意図するものはそれぞれの⼟地で⼈々が暮らすなかで培 われてきた、⽣きていくための、そして危機や困難に直⾯したときにそれらを乗り越えてい くための知恵や技術のことだ。それはまた同時に、他者はもちろんのこと、その⼟地の地形 や気候、そしてそこに⽣きているさまざまな⽣物たちとつながり、お互いの⼒になれるよう なかたちで共⽣していく⽅法のことである。奈良で暮らし、この⼟地や⾵⼟に根付いた知恵 や技術を培ってきた⼈たちと出会い、⼀緒に活動をすることを通して彼らが持っている知恵 や技術を学び、それを私の中に根付かせて⾃分の⼀部にしていきたいと思った。そういう意 味ではEthno-Remediesは、より⾮物質的なもの−異なる視点から世界を⾒る技術−であ り、その視点を⾃分たちの中に取り⼊れて、⽣きていく⽅法のことである。
プロジェクト名の後半部分Bedtime Stories ⇄ A Lifeʼs Manualには、奈良での活動を通し て得るであろう⽣きていくための技術や知恵を、絵と物語を⽤いて表現し図鑑を作りたいと いう願いを込めた。⼈々が枕元に置いておきたくなるような、そして眠りにつく前に少しず つページをめくって読みたくなるような美しい本を作りたいと思った。そしてその図鑑は、 奈良での活動を通して得た知恵や技術が私の中にゆっくり根付いていくように、読者の⼼の 中にゆっくり染み込んでいき、もしいつか危機や困難に直⾯することがあればそれらを⽣き 抜いていくための糧、道を照らすものになってほしいと思った。また時間をかけて読者の⼼ のなかに根付いた知恵はいつでも彼らの⼀部としてあり、他者に伝えることで伝播してもい く。そういう意味ではこの図鑑は「移動していく⼟着性」のようなものなのかもしれない。
このプロジェクトは私なりに博物学や⺠俗学、⺠族誌学の流れを参照しつつ、美術を⼿段 にしながら異なる視点からの世界の⾒⽅を学び、制作を通して表現していく試みである。ま た同時に、⼈間とさまざまな⽣物、物たちとのあいだに存在している垣根や権⼒構造を取り 払い、すべてのものたちがより⽣き⽣きと、そのものらしく⽣きるための⽅法を模索する試 みでもある。
ワークインプログレス展−養蜂家との活動−
奈良の⼟地や気候、そこで⽣きている⽣物たちとつながる技術をもち、それを⽣業にして いる⼈たち・・・と思いを巡らせているときに「渡来⼈が三輪⼭に蜂を放った」という記述 が万葉集のなかにあり、それが⽇本の養蜂の始まりだと聞いた。蜂を飼育して蜂蜜をとるこ とを⽣業にしている⼈々、蜂を介して植物や森林、⽣態系と繋がっているであろう養蜂家と いう存在に興味をもった。少し調べていくうちに奈良の⽣駒⼭を拠点に養蜂をされているご 家族がいらっしゃること、そしてそのご家族は奈良だけではなく、毎年北海道に遠征する 「移動養蜂」もされていることを知りとても興味を持った。何度かお店−吉岡養蜂園−を訪 問するなかで、蜂の⽣態や、蜂のことも考えて設計されてきたヨーロッパの街並みと⽇本の 街並みの違い、肌⾝を通して感じる気候変動や温暖化の影響についてなど、私が全く考えた こともなかったことや実感として感じにくいことも話してくださり、毎回多くの刺激と学び をいただいた。またご家族みなさんの仲の良さやとても温かい⼈柄、そして蜂に対する愛情 にひかれて⼀緒に活動をさせていただきたいと強く思った。
そんな流れから毎年6⽉に何百箱もの蜂箱を⼤型トラックに積んで⾏われる、奈良から 北海道・中頓別への遠征に同⾏させていただくことになった。また、息⼦の養蜂家、伸次さ んからヨーロッパではよく⾒かけるらしい蜂の巣箱への絵付けの依頼を受け、30箱の蜂箱 に絵付けをすることになった。絵付けは装飾という⽬的からだけではなく、蜂には⾊彩や模 様を認識する能⼒があるため蜂箱を着彩することで蜂たち、特に⼥王蜂が⾃らの巣を認識 し、迷⼦にならないようにするためとのことだった。伸次さんの養蜂家として経験則をもと にしながら、デザイナーの⻑岡綾⼦さんのご協⼒のもと蜂の視覚や⽣態を考えながら蜂箱の デザインを練り、プロジェクトメンバーと⼀緒に着彩作業をした。
このワークインプログレス展(制作途中発表展覧会)では、奈良〜北海道の遠征の様⼦を 記録した映像、着彩した蜂箱、そして吉岡さんご⼀家と蜂たち、そして奈良、北海道の植物 たちの営みの結晶である蜂蜜を主軸として展⽰を構成した。今年の春〜夏にかけて採られた 天然の蜂蜜を実際に味わっていただき、これらの蜜を集めてきた蜂たち、奈良と北海道・中 頓別の森の樹々や⽔や⽣態系、そしてそれらと⽇々向き合いながら仕事をされている養蜂家 たちのことを想像していただけたら幸いである。
2021年12⽉18⽇、奈良にて
⻑坂 有希
展示物:
1. プロジェクト・ロゴデザインの記録(長岡デザイン提案書)
アーティストとデザイナーが会話を通して、ロゴデザインの制作を行った。
2. 孔雀石
万葉集の枕詞として「青丹よし(緑の石、土が取れる場所)」と謳われるほど、奈良では昔から良質の孔雀石がとれたらしい。奈良県御所市三盛鉱山付近で採取。
3. 赤膚焼の花瓶
奈良で作られる赤膚焼には特定のスタイルの規定があるわけではないが、釉薬が施されていない土の部分が赤く焼き上がることが特徴的で、それが名前の由縁とも言われている。
4. 畑の土
プロジェクト・ロゴのモチーフカラーとなった土。奈良県奈良市東九条町の大安寺の前の畑で採取。
5. 蜂箱
人間(養蜂家)と蜂の両者の視覚や行動、生態を考えながら着彩した。
デザイン:長岡綾子、着彩:井上謙吾、井上唯、内山幸子、榎本歩美、神田梨生、木村希、続木梨愛、長坂有希、西尾咲子、西尾純一、野村隆文、早田典央、
山本あつし、HUANG Peng Chia
6. 巣箱デザインの記録(長岡デザイン提案書)
アーティスト、プロジェクトチームメンバー、デザイナーがリサーチと会話を通して、巣箱デザインの制作を行った。
7. ハチミツ
2021年の春~夏にかけて奈良と北海道で採集された。
山桜(奈良)、生駒百花(奈良)、シコロ(北海道)、チシマアザミ(北海道)(生産:吉岡養蜂園)
木:しろ山桜、うわみず桜、熊野水木、アカシア、そよご(奈良県生駒市生駒山にある吉岡養蜂園の蜂場で採取)、樹木&植物図鑑
8. 映像 (20’42”)
撮影:山中美有紀、長坂有希
編集:長坂有希
写真提供:奈良県立大学「実践型アートマネジメント人材育成プログラム CHISOU」
写真撮影:衣笠名津美、山中美有紀
Nara Prefectual University CHISOU Project – Program 2: Ecology
Work-in Progress Exhibition by Aki Nagasaka
Ethno-Remedies: Bedtime Stories ⇄ A Life’s Manual
18 – 26 December 2021
Naramachi Bookspace Fusenkazura
Photos Courtesy: CHISOU Program, Nara Prefectural University
Photos: Kinugasa Natsumi, Miyuki Yamanaka